
「エリートが庶民感覚を持ってしまうこと」
フェミニズムの理念:「弱者は弱者のままで尊重されるべき」?
4月12日に行われた東京大学学部入学式で、社会学者で東京大学名誉教授の上野千鶴子氏が登壇し、祝辞を述べた。東京大学公式ウェブサイトでは全文も掲載されている。このスピーチが、インターネット上では多くの賞賛の声を呼んでいる。
上野氏のスピーチはあくまで東大の新入生に向けられたものだが、しかしその反響はもはや単なる祝辞の枠を超えている。NHKをはじめ全国のマスコミでもその内容を含めて報じられ、内外で大きな議論を呼んだ。
上野氏が現代社会をどのように捉えているのかが端的に垣間見える部分も多くあり、検討する価値は大いにあるものと考える。よって今回、もはや何番煎じともわからない状況とはなってしまったが、私も取り上げたいと考えた。
■「階級社会」への移行を映し出す言葉
とくに評価が集中しているのが、新入生に対して「ノブレスオブリージュ」を説くこの箇所である。
〈そしてがんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったことを忘れないようにしてください。あなたたちが今日「がんばったら報われる」と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。(中略)
あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください〉(東京大学「平成31年度東京大学学部入学式 祝辞」より引用。以下、引用の際は「祝辞」と表記)